物流コラム2025

【第1回】『物流とは何かを再復習してみよう』

【執筆】一木 秀樹 (いちき ひでき)/未来フォレスト代表

物流とロジスティクスの違い

 物流と言う言葉をニュースや新聞などでよく見聞きするようになりました。昨年から上映された映画『ラストマイル』の影響も大きいと思います。一般的には、物流をヤマト運輸株式会社のような配送のイメージだけで持たれている方も多い現状です。

実際は、物流の下流であるラストワンマイル(last one mile)の所を指しています。ラストワンマイルとは、最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスになります。ラストワンマイルを直訳すると「最後の1マイル」になりますが、距離的な意味ではなく、お客様へ商品を届ける物流の最後の区間のことを意味します。映画『ラストマイル』では普段見ることができない物流センターの内側の様子も描かれました。

物流センター内で使用されている機械設備が、どういう役割をしているかが一般の方にはわかないものの機械による自動化のイメージは伝わったのではないかと感じます。

 ここでは、改めて物流とは何か?について再復習してみましょう。物流とは、商品が生産されてから消費者に届くまでの流れを指します。この場合、届け先は消費者になりますので消費者物流になります。Eコマースの普及により、個人宛の配送需要が急増しました。フリマなどによる個人同士間の電子商取引も拡大しています。

消費者物流以外の領域としては、調達物流(原材料や部品の調達)、生産物流(資材の管理や工場内の流通)、販売物流(倉庫から卸売業者、消費者へのお届け)、回収物流(不良品・不用品・リサイクル可能な商品の回収)などもあります。

では、よく似た言葉に『ロジスティクス』があります。果たして物流と同じ意味でしょうか?実は違います。ロジスティクスとは、商品が生産されてから消費者に届くまでの仕組みを最適化することです。また、ロジスティクスとは、軍事用語の「兵站(Military Logistics)」をビジネス用語に転用したものになります。混同しやすい言葉になりますので、注意しましょう。(図①)

図①

概要

物流の6大機能

図②

 物流の機能として、6つがあげられます。輸送・配送、保管、包装・梱包、荷役、流通加工、情報処理のつになります。情報処理を除いて5大機能と呼ばれることもあります。

  • 輸送・配送:商品を生産者や販売者から受け取る側に送り届ける機能
  • 保管:一定期間、物を適正な管理の下で保っておく機能
  • 包装・梱包:商品を衝撃から守り、安全に届ける機能
  • 荷役:倉庫での作業で、荷物の積み下ろしや仕分け、ピッキングなどを行う機能
  • 流通加工:物流の中で商品価値を高めるために施す加工
  • 情報処理:物流の各機能を効率化、高度化するためのシステム

(図②)

 輸送・配送は物をトラックや航空機などの輸送手段で運びます。物流センターの役割として、保管・包装/梱包・荷役・流通加工・情報処理までを対応する大型の物流センターが増えています。物流センターで6大機能の内の5つの対応をすることにより、物を店舗や消費者に迅速かつタイムリーにお届けできる仕組みが出来上がるのです。

インダストリー4.0

 インダストリー4.0(Industry4.0)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?私が以前所属した企業がドイツに展開していたこともあり、日本でいち早くこの概念を取り入れようとしていました。そのため、関連書物がでていない中で自力での自社の商品とのラップをさせて考え方を顧客に提案していました。インダストリー4.0とは、ドイツ政府が2011年に発表した産業政策です。第4次産業革命と訳されています。物流というよりも製造業においてデジタル化を進めて生産情報を可視化し、新しいビジネスモデルを作るという考え方になります。

図③

ちなみに第1次産業革命から第3次産業革命は以下のような内容になります。

  • 第1次産業革命:水力・蒸気機関を活用した機械製造設備を導入
  • 第2次産業革命:石油と電力を活用した大量生産
  • 第3次産業革命:コンピュータや電子機器を活用した個別対応

(図③)

 このインダストリー4.0も、今ではあまり聞かれなくなりました。製造業だけでなく、物流への派生を前職当時は期待していたものでしたが、移りゆく時代の中で埋没したのかもしれません。今では、ロジスティクス4.0の考え方が主流です。ロジスティクス4.0は、物流におけるイノベーションを指し、物流技術の革新だけではなく、IoTなどを通じて物流の効率化を飛躍的に向上させる考え方になります。

フィジカルインターネット

 経済産業省や国土交通省にて、提唱されている考え方です。内容を知らなくても言葉を聞いたことがある方は多いと思います。フィジカルインターネットとは、インターネット通信におけるデータの塊をパケットとして定義し、パケットのやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることにより、回線を共有した不特定多数での通信を実現する考え方を、フィジカル、つまりは物流の世界にも適用しようという考え方です。仕組みの一部としては、倉庫や車両の空き情報などをデジタル技術で可視化し、規格化された容器に詰められた貨物を輸送、複数の企業の物流リソース(倉庫、トラック等)をシェアしての共同配送、輸送の途中でハブを設け、受け渡し単位(貨物の規格)で統一するなどが挙げられます。

 経済産業省及び国土交通省では、フィジカルインターネット実現会議において、物流のあるべき将来像「フィジカルインターネット」を日本において実現すべく、2040年を目標としたロードマップを取りまとめられています。(図④)

 ロードマップでは、業界横断的に行うべき取組として、「ガバナンス」・「物流・商流データプラットフォーム」・「水平連携」・「垂直統合」・「物流拠点」・「輸送機器」の6つの項目にわかりやすく整理しています。

各項目について、パレットやコンテナ容器等の物流資材の標準化・シェアリングや、データ連携のためのマスタ、プロトコルの整備、企業経営者のサプライチェーンマネジメントやロジスティクス重視への意識変革など、2040年までに段階的に行うべき取組を示されています。また、別な図では、「効率性」「強靭性」「良質な雇用の確保」「ユニバーサル・サービス化」の4項目について実現する社会についての例が挙げられています。(図⑤)

 2024年5月に伊藤忠商事株式会社、KDDI株式会社、株式会社豊田自動織機、三井不動産株式会社、三菱地所株式会社の5社は、2024年度中のフィジカルインターネットの事業化に向け共同検討することについて合意し、覚書を締結したことが発表されています。業界を横断しての物流改革をしていく宣言でもあります。今後、このようなパートナーシップを組んでの取り組みが増えてくるものと思われます。2040年まで後15年、更なる官民一体となって実現できることを期待したいところです。

  • 効率性:リソースの最大限の活用・CO2排出の削減等
  • 強靭性:災害にも備える生産拠点や輸送手段の多様化等
  • 良質な雇用の確保:労働環境の改善・新産業の創造等
  • ユニバーサル・サービス化:買い物弱者や地域間格差の解消等

今回、物流の基礎を再確認し、物流6大機能やロジスティクス4.0、フィジカルインターネットという“全体を捉えるレンズ”を磨いていただきました。しかし「知る」だけでは現場は動きません。

次回は、既に現場で稼働し始めている自動搬送ロボット AGV/AMR を取り上げ、Amazonの巨大物流センターやファミレスで走るネコ型配膳ロボットなど身近な導入事例を交えながら、「人手不足」「作業効率」「柔軟な拡張性」をどこまで解決できるのかを深掘りします。

さらにAGVとAMRの技術的な違いと選定の勘所、ACRという新潮流、サブスクモデルの普及がもたらす新たな投資判断の視点も解説。中小企業省力化投資補助金の賢い活用法やシミュレーションによる最適台数の算出メソッドまで網羅し、実践に直結するヒントをお届けします。ロボットが物流の未来をどう切り拓くのか――その最前線をぜひ覗きに来てください。

筆者プロフィール


一木 秀樹 (いちき ひでき)

一木 秀樹 (いちき ひでき)

未来フォレスト代表
日本物流システム協会マテハン塾 講師/月刊マテリアルフロー 営業企画室 室長

物流業界で35年以上のキャリアを誇る物流機器・マテハン分野の専門家。
伊東電機で26年間、営業部門の要職を歴任し、革新的なローラー内蔵型モーター駆動システムの普及や省エネコンベヤの開発に貢献。現在は未来フォレスト代表としてコンサルティング業務を展開する傍ら、JIMH「マテハン塾」講師や流通研究社『月刊マテリアルフロー』営業企画室長として、最先端の物流現場の取材・企画を手がける物流システムのエキスパート。

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WES(倉庫実行システム)とは?

物流倉庫業務における基幹システムで、原料や在庫といった物の管理を行うWMS(倉庫管理システム)と、倉庫内の設備のリアルタイム制御を行うWCS(倉庫制御システム)の間で、「物流現場の制御・管理に特化」したシステムのこと。 従来WMSが行っていた現場の制御と管理をWESに分離することで、WMSの役割がシンプルになり、自動化設備の導入や作業手順の変更等、業務の変化にスピーディーに対応することが可能となります。