【第5回】『現場起点の自動化・省力化で導く最適解:部分最適から全体最適へ』
【執筆】一木 秀樹 (いちき ひでき)/未来フォレスト代表

現場の課題に即した対応こそ即戦力
自動化・省力化の検討をする場合、まずは自社の状況を把握して、課題点を明確にした上で取り組むべきです。安易にコンサルタントに頼ったり、機械やソフトメーカーに依存する手法は、課題の発見を遅らせるだけでなく、見当違いの改善につながる恐れがあります。
素晴らしいコンサルタントやメーカー担当者に出会える可能性もあるかもしれませんが、まずは自社で課題点を把握する姿勢が大事です。自社で把握したことをベースにすれば、考え方の軸がぶれないことにつながります。
自社が主導権をもって進めることこそ、即戦力につながっていきます。なお、全体設計や“今ある人・設備”の活かし方はダッシュボード等で現状を可視化してから計画すると無駄が少なくなります。
人との共存も大切
なんでもかんでも、機械化・自動化すれば適切な改善につながるわけではありません。自社の課題解決が小規模・中規模・大規模なのかにより、想定も違ってきます。小規模であれば、その機械を導入することにより、どのような人の作業に変化をもたらすものなのか?機械化が必ずしも、1+1=2や2×2=4などになるとは限りません。
安易な導入が、かえってマイナスすることだって考えられるわけです。導入するからには、作業の軽減・作業ミスの減少ひいては作業者の削減につながることが理想です。現在の作業の状況を踏まえて、作業者と機械の適切な配置が、効果を最大限発揮することにつながります。
固定化されないマテハン機器でフレキシブルな活用

伊東電機より提供:id-PAC
大規模・中規模の設備であれば、導入したマテハンの大半が固定化されるかもしれません。ただ今では、AGV・AMRやAGFなどもあり、必ずしも全てが固定化されるわけではなくなりました。それでも、大規模・中規模の場合、自動倉庫やソータ・コンベヤなど一度設置すると、簡単に動かせないマテハン機器がメインを占めます。
小規模の場合、マテハン機器において、フレキシブル性が大事な要素を占めると考えます。季節により物量の変化はないでしょうか?繁忙期や閑散期の物量の差はないでしょうか?また、想定よりも物量が現状より増加した場合、どうしますか?また、その逆に物量が減少することだって考えられます。
そんなとき、フレキシブル対応ができるマテハン機器だったら素晴らしいとは思いませんか?実は、そんなマテハン機器が伊東電機にあったのです。製品名はid-PACになります。
最初は中々このフレキブルな考え方をユーザーに説明するのが大変でした。しかし、展示会を重ねる度に反応が変わり始め、ついに第一号が納入されたことにより、流れが一気に変わっていきました。日本MH協会でのマテハン大賞受賞も追い風になりました。
当時、マテハン大賞審査員へのプレゼンを私が行いましたが、ハードだけでなくソフトも連動させてフレキシブルに対応させていくしくみが審査委員長のハートをがっちりつかんだことを覚えています。今では、製品の特長としてフレキシブル性を取り入れている製品も増えています。それだけに、今フレキシブルの考え方が世の中に認知されてきたのだと感じます。
スモールスタートで導入のハードルをさげる
AMR・AGVの登場によりスモールスタートがしやすくなりました。実際、AMR1台から課題解決を図っていった事例もあります。サブスクの登場により、初期投資が抑えられることは自動化導入のハードルを大きく下げました。現状であれば、補助金活用することにより、サブスクではなくても初期投資を抑えられる可能性がでてきました。補助金の対象になるマテハン機種の選択の幅や補助金のしくみも拡大していると言えます。自社の今の状況や将来の構想もよく考えていきましょう。小規模であれば、スモールスタートが最優先の選択肢になるはずです。
マテハン機器の連携を考えての全体最適化
今、ボトルネックになっている場所にあるマテハン機器を導入したとします。それで解決すれば万々歳なのですが、中々うまくいかないのが世の常です。マテハン機器導入で部分最適を図ったつもりが、今度は違う場所がボトルネックになるということがありえます。こうなるといたちごっこの始まりです。改善しても改善しても最適化されない・・・これは、ライン全体や物流センター内全体を俯瞰的視野で見れていないことが要因です。
一部の問題点を解消すれば全てが解決するとは限りません。特に、大型のセンターでは、いろんな流れが入り乱れています。メーカー1社だけでは対応できない場合もあるはずです。この解決がマテハン機器同士の連携になります。主導をどのメーカーがするのか?エンジニアリングできる企業の介在が必要になるのか?荷主目線で考えられれば、メーカーの垣根をこえての連携が可能になり、効果が最大限に発揮されます。最初は部分最適であっても、その先の全体最適化を見据えておくことです。
分析ソフト/支援ソフトの活用でリスク回避

YEデジタルのWES
WMSの機能が拡充してきました。WMSとは、倉庫管理システム(Warehouse Management Systemの略)のことで、倉庫業務全般を効率的に管理するためのソフトウェアです。入出荷、在庫管理、棚卸、流通加工など、倉庫内作業をデータ化し、正確性・効率性の向上が図れます。一方でWESが一躍注目されてきました。
WES(Warehouse Execution Systemの略)とは、倉庫内の様々なリソースを統合的に管理し、リアルタイムで最適な作業指示を出すことで、倉庫業務全体の効率化を図るシステムになります。WMSとWCS(倉庫制御システム:Warehouse Control Systemの略)の中間に配置されます。それによりWCSにつながったマテハン機器の運用を最適化し、前述の全体最適化につながっていくのです。そう考えるとWESは、今度とも益々なくてはならないシステムになると言えます。
また、分析ソフト・支援ソフトも増えてきました。分析ソフト導入により、運用状況が明確にわかります。これにより偏った運用を平準化して無駄をなくしていくことにつながっていきます。また属人化の解消につながるのが支援ソフトです。意思決定をサポートする・・・場合によっては意思決定そのものもやってくれる時代が来るのかもしれません。例えば、物流センターのセンター長の1日の業務を支援ソフトが先取りして対応してくれれば、大変大助かりですよね。
イニシャルコストだけでなくランニングコストも重要
マテハン機器は機械になりますので、メンテナンスが必要になります。メンテナンスにより製品寿命を延ばせますし、故障の早期発見にもつながります。例えばモータローラコンベヤの場合、駆動側のモータローラと従動側のフリーローラとを連動するためにベルトが使われています。ベルトは消耗品になりますので、定期的な交換が必要になります。ベルトを交換するためには運用していない時間帯に交換作業をする必要があります。
作業には人件費がかかりますので、メンテナンス契約によって年間メンテナンス作業の費用を取り決めたり、都度対応での費用支払いをする方法があります。モータローラ自体も永久的に使用できるわけではないので、交換が必要になります。
故障予測や予防保全のためにも、稼働状況のデータなどが蓄積されれば、判断基準を決めての対応ができることになります。予防保全により、計画的な交換作業が実行され、それがランニングコストを最小限に抑えることも可能にできるのです。近年はログ解析や生成AIの応答を活用した運用・保守も登場し、要員負荷や復旧時間の短縮に寄与します。
マテハン機器導入による投資対効果
マテハン機器導入には、初期投資がかかります。規模や導入方法にもよりますが高額になりやすい現状があります。前述のランニングコストもかかりますので、初期投資+ランニングコストを見込んだ上で、マテハン機器の法定耐用年数なども考慮し、何年で投資回収すべきかで計画立案をするのか?一般的な指数を基準にするよりも自社の状況に合わせての期間を考えるべきだと思います。
マテハン機器導入により、人件費削減だけでなく生産性効率向上によるコスト削減も期待できますので、総合的に判断していきましょう。自社にとって、最適な設備導入につながるヒントになれば幸いです。
筆者プロフィール
一木 秀樹 (いちき ひでき)
未来フォレスト代表
日本物流システム協会マテハン塾 講師/月刊マテリアルフロー 営業企画室 室長
物流業界で35年以上のキャリアを誇る物流機器・マテハン分野の専門家。
伊東電機で26年間、営業部門の要職を歴任し、革新的なローラー内蔵型モーター駆動システムの普及や省エネコンベヤの開発に貢献。現在は未来フォレスト代表としてコンサルティング業務を展開する傍ら、JIMH「マテハン塾」講師や流通研究社『月刊マテリアルフロー』営業企画室長として、最先端の物流現場の取材・企画を手がける物流システムのエキスパート。
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『MMLogiStation』

WES(倉庫実行システム)とは?
物流倉庫業務における基幹システムで、原料や在庫といった物の管理を行うWMS(倉庫管理システム)と、倉庫内の設備のリアルタイム制御を行うWCS(倉庫制御システム)の間で、「物流現場の制御・管理に特化」したシステムのこと。 従来WMSが行っていた現場の制御と管理をWESに分離することで、WMSの役割がシンプルになり、自動化設備の導入や作業手順の変更等、業務の変化にスピーディーに対応することが可能となります。


