物流コラム「未来への道しるべ」

YEデジタルは、変化の激しい物流業界を「倉庫自動化に特化したWES」でリードします。

【第3回】物流ロボットはこんなにいっぱい!

【執筆】菊田一郎 エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト

 つい先年まで、倉庫・物流センター構内で物理的な作業を省力化・自動化する設備は、「マテハン機器」と総称されていました。マテハンとはマテリアル・ハンドリングの略で、「モノのハンドリング(保管、搬送、荷役、ピッキング・仕分けなど)」を支援する機器やシステムのこと。
 保管(ラック、各種自動倉庫等)、搬送(コンベヤ、各種産業車両、AGV等)、荷役(クレーン、リフタ、リフト、パレタイザほか荷役ロボット等)、ピッキング・仕分け(ハンディターミナル、デジタル表示システム、ゲート開閉システム、ピッキングカート、自動仕分け機等)などがあり、より広義に「物流システム機器」を言う場合は、包装(自動梱包機・包装機等)、情報システム(WMS等)まで含める考え方もあります。
 これに対し、「物流ロボット」がにわかに市民権を得るに至った流れは、大きく2つあります。

物流ロボット~自動搬送車系

写真1 棚搬送GTPロボットの例(モノタロウ猪名川DCに導入された日立のラックル)[MonotaRO提供]

写真1 棚搬送GTPロボットの例(モノタロウ猪名川DCに導入された日立のラックル)[MonotaRO提供]

 1つは、あのアマゾンが2012年に棚搬送ロボットメーカーのKiva Systemsを買収し、14年から各国の自社センターに導入展開したこと。その投資効果が広く認知され、類似製品が世界中で続々誕生、普及しました。筆者はかつてアメリカやドイツでロボット導入前のアマゾンのフルフィルメントセンターを取材しましたが、「ピッカーは1日に15kmくらい歩く。だからウチに来ればスポーツジムなんかに通わなくてもいいんだよ!」とセンター長は笑って言っていました。それを「歩かない・探さない作業」にした効果には、莫大なものがあったと思います。

 棚搬送ロボットは、古くからある=AGV(無人搬送車)の技術で開発されたものですが、その機動性と自律的な動きのイメージから、厳密な定義はさておき「ロボット」と呼ばれるようになりました。商品(Goods) 棚をピッキングステーションで待つ人(Person)に届ける場合、運用的にはGTP(Goods to Person)ロボットとなります(写真1)。

写真2 AMRの例(アスクル日高AVC、ラピュタロボティクス製)[アスクル提供]

写真2 AMRの例(アスクル日高AVC、ラピュタロボティクス製)[アスクル提供]

 このAGV/棚搬送ロボットから自動走行技術がさらに進化し、自ら現場のデジタルマップを生成するSLAM制御方式で誘導線もマークも不要の無軌道自律走行を可能にし、人の働く現場にも同居して安全に稼働できる、共同型自律搬送ロボット、AMR(Autonomous Mobile Robot)に発展していきます(写真2)。AMRは物流現場では主に、従来は人が押して作業していたピッキングカートに代えて使用され、人の歩行距離の短縮と効率向上を実現します。外食店舗のお料理搬送にも活躍していますね。

物流ロボット~自動ピッキング

写真3 アスクルAVC関西に導入されたMujinのピースピッキングロボット[アスクル提供]

写真3 アスクルAVC関西に導入されたMujinのピースピッキングロボット[アスクル提供]

 もう1つの流れは、日本のMujinが突破口を切り開いた、ティーチレス自動ピッキングロボットの実用化です。こちらは搬送車両ではなく、アームをもつハンドリングロボット。工場での決まった容器や部品のハンドリングなら、半世紀も前からエンジニアがプログラミング、ティーチングを行い綿密に作動設定したロボットが稼働し、自動化されていました。

 対して、何をピックするのかその瞬間まで分からない物流では、そうは行かない。とても無理、とさえ思われていたのです。ところが2016年末、Mujinとアスクルとの数年にわたる共同開発・試行錯誤の末、世界初のティーチレスピースピッキングロボットが稼働したのです。事前ティーチングなしで、今日初めて扱う製品でも、ロボットが自分の眼(センサー)で見て、自分の頭(コンピュータとAI)で考え、自分の手(アームとグリップ)で把持し、モーションプランニング機能により最適動線を算出して運び、リリース。ケースはもちろん小物商品でも、1個単位での「ケース/ピース自動ピッキング」を実現――という、革命的なブレークスルーが達成されたのです。2019年に開設されたアスクルAVC関西では、500ピース/時と人間(初心者)並みの作業生産性を実現するまで進化しています。

写真4 Agility Robotics社の「Digit」[Agility Robotics社提供]

写真4 Agility Robotics社の「Digit」[Agility Robotics社提供]

 なおピッキングロボットのカテゴリーでの今後の注目株は、ヒト型ピッキングロボット(ヒューマノイド)でしょう。米Agility Robotics社のヒト型ロボット「Digit」は、2023年最新バージョンで「顔」もついて、棚からのケースピック&プレイスや人との受け渡しなど共同作業も実現(写真4)。あのテスラ社も、イーロン・マスクがヒト型ロボット「オプティマス」の試作機を22年秋に披露、単価はいずれ2万5000ドル未満を実現すると宣言し、期待を集めています。

ロボット自動倉庫

写真5 オートストアのシステム構成イメージ[オカムラ提供]

写真5 オートストアのシステム構成イメージ[オカムラ提供]

写真6 EXOTEC社のSkyPod(同社日本法人のショールームで筆者撮影)

写真6 EXOTEC社のSkyPod[同社日本法人のショールームで筆者撮影]

 物流ロボットカテゴリーでもう1つはずせないのが、ラック式保管と入出庫の機能をもつロボット自動倉庫です。この数年で多彩なバリエーションが登場してきました。もう皆さんご存じの、天井走行ロボットでじか積みボックスを自動懸垂し入出庫するノルウェーAutoStore社のオートストア(写真5)に続き、シャトルロボットが庫外に走り出て入出庫ステーションまでボックスを届けるタイプが数社から出ています。写真6は仏EXOTEC社のSkyPodで、シャトルロボットは床面ではAMRとして走行しますが、普通なら高層ラックの昇降はクレーンやリフトによるところを、自力で昇降する機能も併せ持ち、抜群のサイクルタイムを誇ります。

 いずれも自動倉庫と搬送ロボットによるGTPピッキングシステムを構成し、作業効率を大きく高めてくれます。なおGTPと言えば棚搬送ロボットのことだとの誤解もあるようですが、GTPはあくまでもモノを人に届ける運用方式のこと。ロボットを使わず自動倉庫からコンベヤで人の手元に届けるのも、立派なGTPシステムです。

 以上、最近の人手不足でとみに注目されている各種の物流ロボットを、ほぼ全カテゴリーにわたって概観しました。こんなにいっぱいあるのです。これらと従来のマテハン機器を含め、各種のハードを組み合わせて拡張することで、第1回に述べた物流センター自動化の「レベル3」から「レベル4」以上を目指すことができます。

 ただ、そうして高度化・複雑化していくほど、パフォーマンスを最大化するためには、ハードとは別に、ソフトウェアが制約要因になっていく傾向があるのです。この重要ポイントについて、次回は書きたいと思います。

                                        

(つづく)

YEデジタルは、変化の激しい物流業界を「自動倉庫に特化したWES」でリードします。

筆者プロフィール


菊田 一郎(きくた・いちろう)

菊田 一郎(きくた・いちろう)

エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト

1982年名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材を約1,000件実施、講演・寄稿など外部発信も多数。 2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より23年6月まで㈱日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師、21年1月よりハコベル㈱顧問。 著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)、「物流センターシステム事例集1~7」(流通研究社、単著)など。

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WES(倉庫実行システム)とは?

物流倉庫業務における基幹システムで、原料や在庫といった物の管理を行うWMS(倉庫管理システム)と、倉庫内の設備のリアルタイム制御を行うWCS(倉庫制御システム)の間で、「物流現場の制御・管理に特化」したシステムのこと。 従来WMSが行っていた現場の制御と管理をWESに分離することで、WMSの役割がシンプルになり、自動化設備の導入や作業手順の変更等、業務の変化にスピーディーに対応することが可能となります。